エシカル消費から見る消費者の嘘について
マーケティングリサーチにおいて、消費者に行ったアンケート結果と、実際の行動に差がある事は珍しくありません。そもそもなぜそのようなアンケートと行動に差が生まれるのでしょうか。エシカル消費を事例として、見ていきましょう。
アンケート結果と実際の消費の差
エシカル消費とは、環境問題や人権などに配慮した倫理的な消費行動を指します(参考:エシカル消費とは | 消費者庁)。あまり聞き慣れないという人もいるかと思いますが、海外での認知度は非常に高く、アメリカで6割、中国では9割が認知しています。日本ではSDGsの方が認知されていますが、内容としては似たようなものと考えてよいでしょう。
参考:SDGsへの認知・興味関心は、日・米・中の3ヵ国で大きく異なる~日本・アメリカ・中国のSDGsに関する意識比較調査~ | SDGs fan
ただ、このエシカル消費の認知度が高いアメリカでは、アンケート結果とは逆の状況が起きています。現在、安価な通販アプリとしてTemuやSHEINが、アメリカで猛威を振るっています。Temu・SHEINの売上の多くは北米、アメリカが占めています。エシカル消費の認知度から考えると、著作権侵害や劣悪環境での労働などが指摘されているTemu・SHEINでの購入は少ないはずです。しかし実際にはアメリカでのTemu・SHEINの市場は大きく、たくさんのアメリカ人が利用しています。
では、なぜアンケート結果と実際の消費に差が生まれてしまうのでしょうか?それはアンケートのやり方に3つの落とし穴があるからです。
- アンケートに答える層と、実際にTemu・SHEINで購入する層が違う
- Temu・SHEINは中国系アメリカ人が中心に買い支えていると言われています。アメリカには他にも多種多様な階層の人達がいます。そのため、アンケートに答える層が実際に購入する層と異なっている可能性が考えられます。
- アンケートでは「見栄を張る人」が多い
- 一般的にアンケートはよく見られたいというバイアスがかかりがちです。質問内容から、相手が欲しがっている答えを予想して答えるなど、見栄を張る人は少なくありません。
- 無料と有料には大きな溝がある
- アンケートは無料もしくはポイントがもらえたりするものがほとんどです。逆に、実際に商品を購入するには支払いが必ず発生します。無料と有料の間には大きな差があると言えるでしょう。
「今後購入したい」は本当に買ってくれるのか?
では次は日本で、「エシカル消費経験者の割合」をアンケート結果を見てみましょう。日本でのエシカル消費の認知度は約5割弱ですが、実際にエシカル消費を経験した人は更に減り、約4割となっています。やはり、認知している=消費行動には結びつかないのが表れています。
そしてこのアンケートでもっとも重要なのは、「購入した事はないが今後購入したい」といった、無難な回答項目の割合です。このアンケート結果を真に受けた場合、「今後購入したい」と答えた人達がたくさんいましたが、はたしてこの人達は本当に商品を購入してくれるのでしょうか?
もしこの「今後購入したい」と答えた人の多くが購入してくれるなら、それに越したことはありません。しかし現実はそう甘くなく、やはり購入してくれる可能性は低いでしょう。アンケート通り購入してくれる人が多いなら、アンケートを取って良さそうなものを売れば、商売を失敗することはないでしょう。
参考:令和2年8月消費者庁 エシカル消費(倫理的消費)に関する消費者意識調査報告書の概要について
アンケート結果を真に受けてはいけない
しかしアンケートにまったく意味がないわけではありません。実際に購入してくれた人に意見を聞く事は大切ですし、その意見を元に小さくテスト販売をしていくのがベターでしょう。
新商品や新サービスを作りたい時にアンケートを取るのは悪い事ではありませんが、「買いたい」など前向きな意見が多くても、実際に購入してくれるとは限りません。消費者にとってアンケートはバイアスがかかってしまう・見栄を張ってしまう事が多いとしっかり理解した上で、結果を真に受け過ぎず上手く利用するのが良いでしょう。