なぜアイドルのライブは「2Days」「3Days」になるのか?LTV(顧客生涯価値)で読み解く

最近、アイドルのライブが1日限りではなく「2Days」「3Days」と連続開催されるケースをよく見かけるようになりました。会場を大きくするのではなく、同じ規模の会場で公演回数を増やしています。この減少はマーケティングの重要な指標である「LTV(顧客生涯価値)」の観点から見ると、非常に理にかなった戦略と言えます。

「なぜライブが複数公演になるのか」という身近な疑問をきっかけに、新規顧客の獲得が難しくなっている今の時代、多くの業界が力を入れている「LTV」という考え方を解説します。

新規顧客の獲得は、既存顧客維持の「5倍」高くつく

ビジネスを続けていく上で、新しいお客さんを獲得することはもちろん重要です。しかし、この新規獲得にはコストがかかります。マーケティングの世界では「1:5の法則」と呼ばれる経験則があり、新規顧客の獲得コストは、既存顧客を維持するコストの約5倍かかると言われています。既存顧客の維持に1万円かかるとすれば、新規顧客の獲得には5万円かかる計算です。

(参照:「1:5の法則」とは? | マーケティング用語集 | シナジーマーケティング株式会社

広告費が上がり続ける中、新しいお客さんを連れてくればくるほど利益が薄くなっていきます。もちろんECサイトや単品通販のように、最初は赤字覚悟で新規顧客を獲得し、そこからV字回復させていくビジネスモデルもあります。ただ、多くの業種にとって、新規顧客を積極的に追いかけ続けるのは難しい時代になっています。

だからこそ、いろいろな業界で「1人のお客さんに、長く・何度も・多く買ってもらう」ことに力が入れられています。その指標となるのが「LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)」になります。

LTVは、3つの掛け算でできている

LTVは、基本的に3つの要素の掛け算で決まります。ECサイトを運営されている方であれば「RFM分析」でおなじみの考え方と同じ構造です。

Information

LTV = 平均購入単価 × 購入頻度 × 継続期間

1人のお客さんが、取引期間全体を通じて自社にどれだけの利益をもたらしてくれるか、これがLTVの考え方です。新規顧客の獲得が難しい時代には、この3つの要素(=レバー)のうち、どれを動かすかを考えることが重要になります。

  • 単価を上げる:高単価商品を販売する、セット販売する、アップセル・クロスセルなど
  • 頻度を上げる:もう一度来店・購入したくなる理由づくり
  • 期間を伸ばす:会員制やサブスクリプションなど、離脱させない仕組み

事例で見る「LTVを伸ばす」戦略

Amazonプライムデー:会員化で「頻度」と「期間」を伸ばす

Amazonプライムデーは、日本を含む26カ国で毎年7月に開催されるプライム会員限定の大型セールです。セール中は大幅な値引きが行われるため、Amazon側の利益率はむしろ下がります。それでもこのセールを行う狙いは、セール自体の売上ではなく「プライム会員を増やすこと」にあります。

会員になれば年会費が入るだけでなく、送料無料やポイント還元などの特典によって「お得だからAmazonでたくさん買おう」という購入頻度の向上につながります。さらに年払いの会員であれば「元を取るまでは使い続けよう」という心理も働き、継続期間も伸びていきます。プライムデーは、会員化を入り口に「頻度」と「期間」を同時に伸ばす仕組みなのです。

アイドルライブの2Days・3Days化:「頻度」と「単価」を伸ばす

冒頭でも取り上げた、アイドル等のライブです。会場を大きくして新規のお客さんを増やそうとすると、当然ながら新規顧客(ライトなファン層)の獲得コストがかかります。そこで、会場規模はそのままに、公演日数を増やすという選択をするわけです。

本当に熱量の高いファンは、2日でも3日でも会場に足を運んでくれます。しかも、日程ごとにセットリストや演出、限定グッズの内容を変えることで「もう1回行く理由」を作り出しています。CDの複数枚購入(握手券・投票権つき)が象徴的ですが、実はCDそのものに価値があるわけではありません。中に入っている特典に価値があるからこそ、ファンは同じ商品を何枚も購入するのです。

会場規模を変えずに公演を増やすことで、1人のファンが参戦する「頻度」と、1人あたりの「購入単価」を同時に引き上げを狙う、これがアイドルライブの複数公演化の裏側にあるマーケティング戦略です。

サブスクリプション:「期間」を伸ばすことに集中する

スポーツジムの月会費や食品の定期便(サブスクリプション)は、シンプルに「継続期間」を伸ばすための仕組みです。一度契約すれば、解約しない限り自動的に売上が積み上がっていきます。単価を上げる・頻度を増やすといった複数の施策を考えるのではなく、「いかに解約させないか」という1点に集中できるのが、サブスクリプションモデルの強みです。

大前提は「顧客満足」を上げる・維持する事が重要

ここまで3つのレバーを紹介しましたが、大前提として忘れてはいけないのが「顧客満足」です。値引きや特典を安易に連発すると、「特典があるから買う」「安いから買う」というお客さんを作ってしまいます。こうしたお客さんは客単価が低くなりがちな上、クレームにもつながりやすい傾向があります。

頻度を上げる施策として日替わり特典やクーポンを使う場合も1回目のリピートを狙うためにとどめておきましょう。これはRFM分析でいう「F2転換」(1回目の購入者に、もう1回リピートしてもらう)を狙ったものであり、それ以降のリピートまで値引きに頼り続けるのは余り得策とは言えません。

値引きに頼らずファンになってもらうことこそが、LTVを本質的に伸ばす道です。

まとめ

  • 新規顧客の獲得コストは、既存顧客維持の約5倍(1:5の法則)
  • LTV=平均購入単価×購入頻度×継続期間。3つの「レバー」のどれを動かすかがポイント
  • Amazonプライムデーは「頻度」と「期間」、アイドルライブは「頻度」と「単価」、サブスクリプションは「期間」を伸ばす仕組み
  • 大前提は顧客満足。値引き・特典への依存は客単価の低下やクレームにつながりやすい
  • 自社のビジネスでは、単価・頻度・期間のどのレバーが一番効くかを考えてみる

ちなみに弊社キヨスルの場合、大型の単価アップよりも「10年、20年と長くお付き合いいただけるお客様を増やす」ことをメインに考えており、3つのレバーの中では「期間を伸ばす」ことを特に重視しています。どのレバーを軸にするかは業種やビジネスモデルによって異なりますので、ぜひ自社に当てはめて考えてみてください。

投稿者プロフィール

松本 孝行
松本 孝行代表取締役
兵庫県伊丹市出身

2006年、立命館大学経営学部卒業後、パソコンソフトの卸売会社、総合商社子会社に就職し、2008年に独立。

2011年頃からSEO対策・アフィリエイト用の文章制作から、独学でリスティング広告やアクセス解析、SNS広告などを学び、サービスを展開。

短期大学の情報処理講師や職業訓練校のWebサイト制作クラス・ECマーケティングクラスなどで講師を担当。

現在は株式会社キヨスル代表取締役として、Webマーケティングをデザインすることでクライアントのビジネスに貢献する。
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