昆虫食・コオロギ食をマーケティング視点で見てみると…
一時、コオロギを粉末にした昆虫食が話題になりました。これは、群馬県のベンチャー企業が行ったものでしたが、ちょうど良いマーケティングの事例なので取り上げたいと思います。
プロダクトアウトとマーケットイン
そもそもなぜコオロギを食べるのかという部分を今一度おさらいしておきましょう。理由は世界的な食糧危機を想定している為です。その際にタンパク源が不足するので、安価で大量に育てられるコオロギでタンパク質を補うのが主目的です。
今回の昆虫食に関しての考え方はマーケティング思考で考えると、「プロダクトアウト」的考え方と言えます。プロダクトアウトは一般的に製品・商品から考える手法です。コオロギ食・昆虫食も「これは○○に良いから食べなさい・買いなさい」という食料危機解決のための商品として考えられています。一般的にプロダクトアウトの考え方は失敗しやすいと言われます。失敗しやすい理由は「ユーザーに求められているかわからないから」です。どれだけ良いとメーカー側に言われても、欲しくない物は誰も購入しません。
一般的に成功しやすい考え方が「マーケットイン」という手法です。こちらはマーケット、つまり顧客のニーズに合わせて商品やサービスを作るというものです。今回の昆虫食については、このマーケットインの考え方ではないため、多くの人に批判されたのではないかと思われます。
インサイトの深掘りをしなかった昆虫食
「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の考え方を踏まえて、もう一度昆虫食の話を考えてみます。昆虫食はプロダクトアウト的な考え方だという事がよく分かるかと思います。「環境の為にコオロギを食べましょう」と言われて「食べたい!」と思う人がどれだけ市場にいるでしょうか。潜在的にニーズがあるのかを考えると割合はかなり低いでしょう。
つまり、食糧危機になるのを良しと思う人は少ないはずです。私もいざとなれば何かしらの対策が必要と考えます。ただ、「だから虫を食べましょう」という解決策ではインサイト(ユーザーの深層心理)の深掘りが足りません。もっとインサイトを深掘りすれば、昆虫食以外の方法もあったのではないでしょうか。なぜ他の方法を選ばなかったのか、マーケティング目線で疑問に思うところです。
4Pの順番は必ず守ろう
マーケティングの考え方に「4P」というものがあります。Product(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(プロモーション)の頭文字を取ったもので、マーケティングが成功しやすくなるフレームワークです。これはどんなマーケティングの本にも必ずこの順番で記載されています。商品があって初めて価格を決められるようになり、売り場が決まって初めてプロモーションができるようになります。商品がないのに価格を決める事はできません。どんな職種でも必ず「商品」が最初に来ます。
そしてこの4Pに沿わず失敗する典型的な例が、一番最初の「商品」の部分を疎かにする事です。汎用的な物やニーズがない物を、プロモーションの力で売ろうとする考えが大手企業にもあります。しかし、このやり方ではあまり成功はしません。プロモーションに費用がかかるばかりで、プロモーションにかけた費用を回収できない事がよくあります。
今回の昆虫食はプロダクトはさておいて、どちらかというとプロモーションに力が入っていると感じます。特にテレビなどの4マス媒体によく取り上げられています。昆虫食はインパクトが強く、テレビでも取り上げられやすいですし、インターネットでも話題に上がりやすいでしょう。しかしインターネットではやはり批判的な反応が多い印象です。
商品(プロダクト)が上手に作れていなければ、プロモーションの際に良い反応がなかなかもらえません。必ず、Product(製品)・Price(価格)・Place(流通)・Promotion(プロモーション)の順番で実行をする事が大切なのです。
今回の昆虫食は商品(プロダクト)の部分であまりにも市場とかけ離れた物を出してしまったので、プロモーションが上手く行かなかったのではないかでしょうか。