日本の熱中症死亡者数は世界一」は本当か?統計の落とし穴とマーケティングの数字の見方

「日本の熱中症死亡率は世界一」という調査結果があります。34カ国を対象にした国際研究で、日本は人口100万人あたり5.83人。これは34カ国中1位という数字です。100万人あたり5.83人ということは、およそ20万人に1人が熱中症で亡くなっている計算になります。

ところが、別の統計を見ると話がまったく変わってきます。今回はこの「統計の落とし穴」を入り口に、マーケティングで数字をどう見るべきかを解説します。

日本の熱中症死亡率は、他国と比べて突出している

34カ国の調査結果を見ると、日本の突出ぶりがよく分かります。

順位100万人あたりの死亡率
1位日本5.83人
2位キプロス2.51人
3位中国2.42人
4位アメリカ1.46人
5位フランス1.26人

2位のキプロスや3位の中国と比べても、日本は倍以上の差をつけています。さらに温暖な地域であるイタリアは0.02人と、日本のおよそ290分の1という数値です。

しかも日本は、エアコンの普及率が世界トップクラスです。冷房がこれだけ行き渡っているのに熱中症の死亡率が最も高いというのは、感覚的には矛盾しているように思えます。

参考:熱中症死亡率に34倍の国際格差、日本が最高値を記録

統計はひとつだけでなく、複数を見るのが基本

ここで押さえておきたいのが、統計はひとつだけを見ても実態は分からない、ということです。

イギリスの医学誌ランセットに掲載された別の国際研究では、「暑さによる死者数」という指標で各国を比較しています。この統計だと、順位はこうなります。

暑さによる死者数(年間)
イタリア7,400人
スペイン5,800人
日本4,300人

参考:1371. ランセット・カウントダウン2025 | 国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

先ほど日本の290分の1だったイタリアが、今度は日本を上回っています。人口で割って考えても、イタリアやスペインより日本の方が人口は多いので、比率で見ても日本は下位に来ます。

イタリアで起きている、大きな矛盾

同じイタリアという国で、診断ベースでは100万人あたり0.02人。ところが暑さによる死者数で見ると年間7,400人。この差はどこから来るのでしょうか。

実は、イタリアで人が死んでいないのではなく、熱中症として数えていないだけなのです。

「数え方」が2種類ある

今回の熱中症で取り上げている統計は2つに分けられます。。

診断ベースは、医師が「熱中症」「日射病」などと診断書に記載したものだけを数えます。日本の医師はこの診断をきちんと行い、記録していると言われています。だから日本は熱中症患者・死亡者の数が突出して多く出るのです。

超過死亡ベースは、「暑さがなければ死ななかったであろう人」を統計的に推計する方法です。医師が死因をどう判定したかに関係なく、どれだけの人が亡くなったかを推測できます。

そして興味深いのが、この研究の論文タイトル自体が「熱中症死亡の報告のばらつき」となっている点です。つまりこの論文は「日本が異常に暑い」ということを言いたいのではなく、「報告の仕方が国によってばらついているから、日本だけが多く見える」ということを指摘するための研究だったのです。

マーケティングでも、まったく同じことが起きている

結局のところ、何を数えたかで結論は正反対になります。これはマーケティングでも同じです。

たとえば、2つのレポートがあるとします。

  • A社:コンバージョン100件
  • B社:コンバージョン20件

数字だけ見れば、当然100件の方が良さそうです。ところが中身を確認すると、A社の100件には資料のダウンロードやメルマガの登録、場合によっては動画の視聴なども混ざっていました。一方でB社の20件は、実際に商談まで進んだ問い合わせをコンバージョンと設定していたのです。

こうなると、条件が違うため、比較ができません。見た目では100件の方が良く見えますが、商談が20件あるB社の方が、事業への貢献は高い可能性があります。

コンバージョンは、何に設定するかが自由

SNSなどで「コンバージョン単価10円で、コンバージョンが1,000件や2,000件取れます」という話を目にすることがあります。

可能性としてはゼロではありませんが、実際にWebマーケティングをやっている人間からすると、まずありえない数字です。ECサイトであっても難しいでしょう。だか我々プロは疑います。ある程度の基準を知っているからです。

おそらくトップページを見た、といったページビューをコンバージョンに設定しているのだろう、と推測します。

コンバージョンを何に設定しようが自由です。トップページを1秒見ただけでコンバージョンにしても構いませんし、商品を購入したことをコンバージョンにしても構いません。すべては定義次第なのです。

ですから「コンバージョンがすごく出ました」「コンバージョン率が良かったです」と言われたら、そのコンバージョンは、商品の購入なのか、資料ダウンロードなのか、それとも何かのページを見ただけなのか、これを確認して下さい。でなければ、マーケティング的な意思決定ができません。

他にもある「数字の罠」

コンバージョン以外にも、同じような落とし穴があります。

まとめ

  • 日本の熱中症死亡率は34カ国中1位(100万人あたり5.83人)
  • ただし別の統計では、イタリアやスペインの方が暑さによる死者数は多い
  • 違いは「数え方」。日本は熱中症としてきちんと診断・記録しているが、他国はしていない
  • マーケティングも同じで、コンバージョンの定義だけで数字は大きく変わる
  • 「CV100件」と言われたら、その100件が何を指すのかを必ず確認する
  • クリック率、ROAS、アクセス数、前年比。単発の指標だけを見ないで、総合的に判断する

Webマーケティングをやっていると、どうしてもひとつの指標だけを見てしまいがちです。しかし指標を1つだけ見ていると、勘違いして失敗しやすくなります。実際に「コンバージョンを1万件、5,000件欲しい」といったご相談を受けることもありますが、それだけならいくらでも作れてしまいますし、作っても意味がありません。

数字を見たら「これは一体何なのか」を必ず聞く習慣が、間違った判断を防いでくれるのではないでしょうか。

投稿者プロフィール

松本 孝行
松本 孝行代表取締役
兵庫県伊丹市出身

2006年、立命館大学経営学部卒業後、パソコンソフトの卸売会社、総合商社子会社に就職し、2008年に独立。

2011年頃からSEO対策・アフィリエイト用の文章制作から、独学でリスティング広告やアクセス解析、SNS広告などを学び、サービスを展開。

短期大学の情報処理講師や職業訓練校のWebサイト制作クラス・ECマーケティングクラスなどで講師を担当。

現在は株式会社キヨスル代表取締役として、Webマーケティングをデザインすることでクライアントのビジネスに貢献する。